2014年1月6日月曜日

仏様のガレット

今日1月6日は、フランスではエピファニー(キリスト公現祭)といって、ガレット・デ・ロワ(王様たちのガレット)というお菓子を食べる日です。 

エピファニーは、星の知らせでキリストが生まれたのを知った東方の三博士(王)が、厩に救い主を訪ねて来た日ということで、クリスマスに始まるキリスト降誕祭の最終日ですが、いまどきのフランス人には、そんなことより、まずガレット。パイ生地の中にアーモンドパウダーで作ったフィリングが入った、わりと素朴なお菓子。面白いのは中にフェーヴと呼ばれる小さな固いものが入っていること。数人で切り分けて食べたときに、このフェーヴが入っているのが当たると「王様」になれるというので、老若男女、ワイワイ、お菓子を囲むのが楽しいのです。ふつうは、大人が切り分けている間に、一番小さい子どもがテーブルの下に隠れて、「それはおじいちゃんに」「それはお姉ちゃんに」というように、見ないで皆に振り分けます。 

さて、今、私は東京にいるのですが、久しぶりに外出したところ、日本橋の三越の地下で、ガレット・デ・ロワに遭遇しました。日本の家族にフランスの伝統菓子を、王様ごっこの風習ごと食べさせてやろうと、これをひとつ購入することにしました。ところが・・・ 

「フェーヴ、おつけしますね」 
と、レジで袋に入った小さなフェーヴをおまけのように付けてくれるではありませんか!!!  
「フェーヴは中に入っているんじゃないんですか?」 
と訊くと、 
「あぶないので、中には入れません。ご希望でしたらご自分で入れてください」 
え、そんな・・・ 

けれど次の瞬間、私はにっこりしました。 
実は、年末に父が他界したのです。実家のリビングには、大きな遺影のある祭壇が鎮座していて、食事やお茶のたびごとに、お供えをしています。 
だから、このガレットのフェーヴは、お父さんのに入れてあげよう。 

考えてみれば、フェーヴを中にいれない気遣いも理解できます。みんながフェーヴを探しながら食べるフランスとは違って、そんなものが入っているとは知らない人が多い日本で、うっかりフェーヴを呑み込まれて幼児や老人になにかあっては困ります。だいたい、老人の死の引き金を引くのが、「誤嚥」であることは多い。母は、父の具合が急転したのが、「誤嚥」のせいではないことを知って、とても救われていました。でも、今はもう、誤嚥の怖れもなく、お父さんにあげられます。 

仏教でお葬式をして戒名もいただいた父が、エピファニーのガレットであの世で王様になれるのか、真面目に考えるとあまり自信がなくなってきますが、どうもまだ、この辺りを漂っているような魂に幸せなことがありますように。 

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この話には後日談があります。今朝、葬儀でお世話になった業者の方が、お位牌の相談にいらっしゃいました。お茶を出すときに、余っていたガレットを切り分けたところ、仏様にお供えしようとした最後の一切れに、アーモンドが入っていました。日本では、のどに詰まると危ないフェーヴの代わりに、噛み砕いて食べられるアーモンドを入れていたことがそのとき分かりました。そして私が小賢しいことをしなくても、フェーヴは「お父さん」に当たったのでした。(1月8日)

4 件のコメント:

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  2. はじめまして。いつも拝読しております。編集の仕事をしておりますkimと申します。
    こちらからのご連絡で大変恐縮ですが、中島さまにご執筆をお願い致したい件がございまして、ご連絡さし上げました。
    お仕事のご連絡等はどちらへすればよろしいでしょうか?
    どうぞよろしくお願い致します。
    kim

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  3. の kimさま、メッセージ、ありがとうございました。こちらにコメントいただいていたのを全く気がつかずにおりまして、本当に失礼いたしました。お仕事の件、どうもありがとうございます。もう遅いかもしれませんが、もしご連絡いただけるのであれば、saorina321@gmail.comにご連絡ください。お返事遅くなって大変失礼いたしました。よろしくお願いいたします。

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  4. いえいえ、こちらこそ失礼致しました。どうもありがとうございます。後ほど、ご連絡致しますね。本当にありがとうございました!なお、ご連絡先等拡散してしまうと大変かと思いますので、この一連の投稿は削除して下さって結講です。

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